夜勤初心者の私の前に突如降臨した、イケボのバイト責任者・土方さん(仮名)
初対面時の推定年齢はアラサー。私より十歳は若い計算(注釈:その後、盛大な勘違いであることが判明)
前回の強烈なエピソードのため、妄想主婦の脳内で完全に少女漫画の王子様キャラとして認定されてしまう…
翌週、たまたまいつもの曜日に別の予定が入ってしまったため、違う曜日にバイトの予約を入れたところ
控え室まで迎えに来てくれた土方さんからの意外な言葉
「ましゅまろさんには、今日はうちの農産に入ってもらいます」
なんと、3社入っている会社のうち、初めてスーパーマーケットの部署での作業になりました
「農産」と「日配」の部門があり、野菜や果物が農産、それ以外の食料品が日配の扱いになるようです
日配のカゴ車(コンテナ)のトラック積み込みが21:00前後で終了するため、入れ替わりで夜勤の農産が業務開始する流れ
1便・2便・3便と、パレットに載せられた野菜が時間を空けて次々搬入されてくるので
各店舗の指定の数量ずつに仕分けしてカゴ車に積み込んでいき
ルートごとの配送ドライバーさんに引き渡すまでが、農産の仕事です
基本的に野菜は箱やイフコン(折り畳み式のプラかご)に入った状態で搬入されるため
重たい荷物を豪快に積み込んでいく、男性バイトさんメインの力仕事の部署なのですが
箱に入りきらない端数の野菜、通称「バラ」を仕分けするのが、非力な私の担当
その他にも、柔らかかったり破損しやすいイチゴやセリ、セロリなども、バラの扱いになります
後々わかってきたのですが、入荷される野菜は日々変化していき
季節の行事前になると大量入荷される野菜(かぼちゃ、ゆず、七草セットなど)もあり
四季の移ろいが感じられて風流です
日勤でお弁当の仕分けをさせていただいたことがあったので、初めてにしては慌てずに済んだかも? と、ホッと一息
すべてのカゴ車の引き渡しが終わり、ベテランバイトさん方は人手の足りない他部署のヘルプへと散っていき、私は構内の掃き掃除
掃除は普段はふたり体制なので、よほど他部署が忙しかったと思われます
と、ひとり残された私の様子を見に、土方さんが来てくれました
いつものイケボで「お疲れさまです」と声をかけられ、思わず顔がニヤける妄想主婦(四十路)
所狭しと並んでいたカゴ車も捌け、7月でも肌寒いがらんとした構内
私の目の前で立ち止まった土方さん
「今日、人が足りなくて大変だったんだけど、ましゅまろさんみたいなできる人が来てくれて本当に助かりました。ありがとね!」
思えばそのとき初めて、土方さんのお顔をしっかり見た気がする(失礼すぎる)
とにかく美声の印象が強かったので
満面の、優しい笑顔
うわぁ……この人、マジで王子様みたい……
妄想ヒロインの私が、恋に落ちた瞬間
完全脳内完結しか許されない、立場も実年齢も吹っ飛ばした、想像上だけの片想い
叶わなくていい。触れ合う必要なんて絶対にない
ただ、心だけがギュッと締め付けられるような
真夏なのに真冬みたいな冷蔵倉庫の中で生まれた、清らかな気持ち……
大切に育てていきたいと思った
閉ざされたスノードームの、空想上の白銀の世界の中で。